アフリカ系アメリカ人公民権運動とは、公民権の取得と人種差別の解消を求め、1950年代から1960年代にかけてアメリカの黒人が行った活動です。
英語では、American civil rights movementといいます。
アメリカにおける公民権運動の活動家として有名なのが、Martin Luther King Jr.(キング牧師)とMalcolm X(マルコムX)です。
キング牧師の演説と言えば、人種差別に抗議して行ったMarch on Washington for Jobs and Freedom(ワシントン大行進)と、その時にリンカーン記念館前で行った演説がとても有名です。
あの「I Have a Dream」です。
一方、違う形で公民権運動を推し進めようとしたのがマルコムXです。ボクシングのモハメド・アリに影響を与えた人物として印象に残っている人も多いかもしれません。非暴力を訴え活動を行ったキング牧師に対し、暴力も辞さないという過激な発言からこの二人は対比して語られることも多いですが、必ずしも単純に対比できる存在ではありません。マルコムXも過激な部分はあったとしても、黒人の権利主張のために大きな影響力を持っていました。
マルコムXのスピーチは「The Ballot or the Bullet」です。Ballotとは「投票」、Bulletとは「銃弾」です。タイトルからして「I Have a Dream」とは随分イメージが違いますね。
マルコムX誕生の4年後、キング牧師が誕生し、白人の批判をしていたマルコムXはかつての仲間だった黒人に1965年に暗殺され、黒人と白人が手を取り合うことを夢見たキング牧師は、1968年、白人の脱獄班よって暗殺されてしまいます。
二人については、とてもここでは語り切れませんので、興味のある方はこちらで勉強なさってみて下さい。
キング牧師とマルコムX (講談社現代新書)
二人については映画も作られています。二人がそれぞれどのように公民権運動を進めてきたのかを知るには映画もお勧めです。
グローリー/明日への行進
マルコムX
スピーチを比較して考え方の違いを知る
対照的な二人のスピーチを比較してみるのも、英語学習という視点のみならず、その人達の考え方を知る勉強になります。
以前、トランプ大統領のスピーチを扱った時にも、オバマ大統領とのスピーチの違いから、二人の考え方の違いについて考えました。その時の記事についは、【アメリカで流行中?!】トランプ大統領の英語スピーチで英語を学ぶをご覧ください。
ここでは、キング牧師とマルコムXのスピーチで二人の考え方を比較してみたいと思います。
キング牧師のスピーチは、歴史に残る素晴らしいスピーチと言われるだけって、直接的な言葉より、聖書の引用なども使われ、比喩的な表現も多く、私たちには少し高度な表現が多く使われていますので、少し難しく感じるかもしれませんが、あまり神経質にならず、雰囲気だけでも味わってみて下さい。
差別撤廃の抗議の方法について
差別撤廃のために黒人は抗議し、闘い続けなければならない状況でした。その闘い方について二人が語っている部分を、それぞれのスピーチから抜粋してみました。
まずはキング牧師です。
And that is something that I must say to my people who stand on the worn threshold which leads into the palace of justice. In the process of gaining our rightful place we must not be guilty of wrongful deeds. ~略~ We must forever conduct our struggle on the high plane of dignity and discipline. We must not allow our creative protest to degenerate into physical violence. Again and again we must rise to the majestic heights of meeting physical force with soul force.
日本語に訳そうと思うと少し難しく感じるかもしれませんが、非暴力を訴えているとうことは理解できると思います。内容は以下のようになります。
「正義の宮殿へと導く温かな入口へと向かう同志の皆さんに言わなければならないことがあります。正当な地位を手に入れる過程において、不法な行為を行ってはなりません。~略~私たちは、高い尊厳と規律を持って、闘っていかなければなりません。私たちの創造性に富んだ抗議活動を暴力へと堕落させてはいけません。暴力に魂で応える威厳ある高みに何度でも上がらなければならないのです。」
そして、以下はマルコムXのスピーチからの抜粋です。
1964年はアメリカ大統領選の年でした。それを受けてマルコムXはこう言っています。
If we don’t do something real soon, I think you’ll have to agree that we’re going to be forced either to use the ballot or the bullet. It’s one or the other in 1964. It isn’t that time is running out — time has run out!
「今すぐ、行動に起こさないのであれば、投票か銃弾(闘争)のどちらかしか道はないことを承諾してもらうしかない。1964年の今、この二つしか選択肢はない。「その時」が近づいているのではない。すでに「その時」は来ているのだ!」
英語学習の視点から見ると、マルコムXのスピーチの方がわかりやすいストレートな表現ですね。
agreeは「賛成する」と習ったイメージが強いかもしれませんが、同意するという意味の単語です。同意の中には、賛成、賛同もあれば、承諾、容認、など状況によって当てはまる日本語は色々あります。あえて賛成や賛同という言葉を使わずに訳しましたが、ここでは、have to agreeなので、「受け入れなければならない」「受け入れるしかない」といった言葉でもいいかと思います。
主語がyouなので「受け入れてもらうしかない」といった感じですが、このyouは特定の一人を指すyouではないことはわかっていただけると思います。同じ単語でも、一つの日本語に当てはめずに、文章のニュアンスを大切にして感じてください。
最後のIt isn’t that time is running out — time has run out!の部分、私は上記のように訳しました。
run outは「時間切れになる」という意味です。
time is running out.は進行形なので、時間切れになりつつある。残された時間がなくなりつつある。といったニュアンスです。
time has run out.は完了形なので、今すでに時間切れになっている状態です。
もちろん私の訳が100%ではないので、自分の感覚で感じて下さいね。
白人について
当時は、ジム・クロウ法(Jim Crow laws)があって、人種差別が合法化されていました。州によっての違いはありますが、例えば、学校や病院、レストラン、バスや電車までも黒人と白人厳密に分けられていました。
バスで白人に席を譲らなかった黒人女性が逮捕された事件は、キング牧師の呼びかけでモントゴメリー・バス・ボイコットという大きなムーブメントに繋がりました。この時逮捕された黒人女性、ローザ・パークスも公民権運動の活動家です。
そんな中、白人についてキング牧師は次のように言っています。
The marvelous new militancy which has engulfed the Negro community must not lead us to a distrust of all white people, for many of our white brothers, as evidenced by their presence here today, have come to realize that their destiny is tied up with our destiny. And they have come to realize that their freedom is inextricably bound to our freedom.
We cannot walk alone.
「黒人社会に広がる、この素晴らしい新たな闘志を、全ての白人への不信感につなげてはいけません。我々の兄弟である多くの白人は、今日ここに居ることで、彼らの運命と我々の運命が結びついていることを証明しています。彼らは、彼らの自由が、我々の自由と切り離すことができない絆で結ばれていることに気がついているのです。我々は一人ぼっちで歩くことはできません。」
ここで、キング牧師はthe Negro communityという言葉を使っていますが、今は黒人をNegroと呼ぶことは差別的に聞こえてしまうので注意が必要です。
黒人の友人が冗談交じりに仲間内で「ニグロの皆、集まって~」などと言うことはありましたが、白人の友人が「黒人の友達がいてね」などと言う場合はblackを使っていました。お互いの関係性にもよるのだと思います。
今はAfrican Americanが一般的とのこと。少し仰々しい感じがするかもしれませんが、考えてみたら、私たちもJapaneseとかAsianと表現されますよね。それと同じように使ったらいいと思います。
一方のマルコムXのスピーチが以下です。マルコムXは白人に認めてもらうのではなく、黒人自身が黒人として地位を築く大切さを訴えました。黒人至上主義とも言えるかもしれません。
So I say, in spreading a gospel such as black nationalism, it is not designed to make the black man re-evaluate the white man — you know him already — but to make the black man re-evaluate himself. Don’t change the white man’s mind — you can’t change his mind, and that whole thing about appealing to the moral conscience of America — America’s conscience is bankrupt. She lost all conscience a long time ago. Uncle Sam has no conscience.
「黒人主義のような教えの広がりは、黒人に白人を再評価させるためのものではない。すでに白人のことはわかっているはずだ。黒人に自分自身を再評価させるためのものなのだ。白人の考え方など変えようとするな。白人を変えることなんてできない。アメリカの道徳心に訴えることもできない。アメリカの良心は崩壊している。そんなものは、ずっと前に失われているのだ。アンクル・サムに良心などない。」
最初のit is not designed to make the black man re-evaluate the white man.のmakeは使役動詞です。the black manにthe white manをre-evaluateさせるという使い方になりますね。
スピーチの中で、heで表しているのが白人です。Americaはsheとなっています。国に関しては、擬人化する場合は女性扱いになります。
さて、ここでUncle Sam(サムおじさん)が出てきましたが、このサムおじさんは何を指しているかご存知でしょうか?
アンクル・サムはアメリカ合衆国を擬人化した人物です。国を表す人称代名詞はSheなのに「おじさん」なんですね。星条旗に使われる3色を使った衣装の、上記の絵のような男性がUncle Samです。United StatesのU.S.から名付けられたと言われています。
長いスピーチの一部なので、全てをつかむことは難しいですが、二人の基本的な違いは感じていただけたかと思います。
なんだか日本語にするより、英語のままの方がすんなりと入ってくる部分も多いような気がしませんか?
日本語にしようと思うと、何故かキング牧師のスピーチは「ですます調」で、マルコムXのスピーチは「だ調」で訳したくなります。これも、あくまで非暴力に訴えるキング牧師や暴力も辞さないというマルコムXの考え方や、使われている言葉などから感じ取れる英語のニュアンスの違いなのだと思います。
I Have a Dream
キング牧師の有名なフレーズ、I Have a Dreamについても少し見ておきましょう。キング牧師はスピーチの後半で、I have a dream thatと繰り返し夢を語っていますが、その中で、英語初心者の方にもわかりやすい部分を紹介します。
I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.
~略~
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
Georgiaはジョージア州のことで、キング牧師の出身地です。
the red hillsとはジョージアの赤土のことを言っています。
私がヘタな日本語にする必要はないと思います。英語のリズムと響きを十分に感じて下さい。この動画の2分20秒あたりからI Have a Dreamのくだりが始まります。英文で読む時とは違うリズムが印象的です。
リンカーン大統領のゲティスバーグ演説
公民権運動の指導者、キング牧師とマルコムXのスピーチを紹介しましたが、この約100年前の1863年に奴隷解放宣言を出したのがリンカーン大統領(Abraham Lincoln)です。ただ、この後も黒人にとっての苦難の歴史は続きます。
アメリカ黒人の歴史 (NHKブックス)
そんなリンカーン大統領のスピーチとして有名なのが、1863年のゲティスバーグ演説です。
キング牧師の「I Have a Dream」は1963年なので、ちょうどゲティスバーグ演説から100年後のことです。ゲティスバーグ演説は下記のように始まります。
Four score and seven years ago our fathers brought forth on this continent, a new nation, conceived in Liberty, and dedicated to the proposition that all men are created equal.
最初のscoreは「得点」という意味ではなく、20の集まりのことを表しています。こういう意味もあったんですね。日本語にするのは難しい単語です。「世代」とも考えましたが、1世代は30年と言われますので誤解を生む原因になってしまいそうです。
Four score and seven years agoは87年前にあたるので、日本語にする場合「87年前」とするしかないのかもしれません。1776年の独立宣言から87年経ったことを言っています。
100年後のキング牧師の演説も、リンカーン大統領の演説の冒頭の表現を使ってリンカーン大統領の話から入っています。
Five score years ago, a great American, in whose symbolic shadow we stand today, signed the Emancipation Proclamation.
the Emancipation Proclamationは奴隷解放宣言のことです。
「人民の政治」ってどう解釈する?
さて、ゲティスバーグ演説についてですが、この演説は約2分間の短い演説です。最も有名なフレーズは「人民の人民による人民のための政治」というあのくだりですね。
前からの繋がりがあるので、この部分だけで全体の意味をつかむことはできないのですが、ここではこの有名なフレーズを使って、前置詞について考えてみたいと思います。最初のand thatのthatは前からの文章の繋がりを受けてのthat節のthatです。
and that government of the people, by the people, for the people, shall not perish from the earth.
この部分だけの意味は、有名な日本語のフレーズを使うとしたら、「人民の人民による人民のための政治を地球上から消し去ってはいけない」ということになります。
では、「人民の人民による人民のための政治」とはどういうことなのでしょうか。
わかりにくいのは、government of the people(人民の政治)の部分です。実は、この問題は様々な解釈や議論があり、簡単に「この意味が正解です!」と私には言えません。
ofというと「~の」と訳すのが定番ですが、日本語の「~の」にも意味は色々あります。
辞書を引いてもofには色々な意味合いが含まれていますね。所有、部分、度合い、材料、関係、起源、目的格関係などなど。
さらに冠詞のないgovernmentをどう考えるかにもよって、文法的にどうこうという難しい話にもなってしまいそうなので、解釈面からだけ考えます。よく言われている解釈を紹介します。実際にそれぞれの解釈を推奨する専門家もいるそうです。
所有のofの解釈
所有のofは日本人にとって、親しみやすいofです。
所有のofとして解釈すると「政治の権力を持っているのは人民」となります。
「政治の権力を持っているのは人民で、その人民が人民のために行う政治」
目的格関係のofの解釈
目的格のofと解釈してして、「人民をおさめる政治」と解釈することもできます。
「人民を、人民が自ら人民のために治める政治」
由来のofの解釈
「人民に由来する政治」との解釈もあります。
「人民に由来する政治を人民が人民のために行う政治」
ちょっと、こんがらがる話になってしまったかもしれませんが、ofという前置詞だけでも意味が色々取れてしまうのですから、前置詞はとても大切なんです。
ネイティブは、最後の「人民に由来する政治」と理解する人が多いようです。でも、「人民に由来する政治」って日本語でもちょっとイメージしにくいですね。これをgovernment of the peopleだけで表現できてしまう英語「恐るべし」です。
前置詞は存在感がなく、ついつい読み飛ばしているという人もいらっしゃるのではないでしょうか?前置詞によって意味が変わってしまう場合もあるので、最低限の前置詞のイメージはつかんでおくと、英語の理解力も上がっていくと思います。
まとめ
今回は少し堅苦しい内容になってしまったかもしれませんが、黒人だけでなく、どこへ行っても様々な差別が存在するのは事実です。私たち日本人も、差別する側にもされる側にもなっていると言えるのかもしれません。
差別は英語でdiscriminationと言います。この単語には、「差別」と「区別」という意味があります。
Collinsには下記のようにありました。
- Discrimination is the practice of treating one person or group of people less fairly or less well than other people or groups.
- Discrimination is knowing what is good or of high quality.
- Discrimination is the ability to recognize and understand the differences between two things.
1は、いわゆる「差別」です。
2は「良い物がわかっていること」、つまり「見る目がある」という感じでしょうか。
3は「二つの違いを認識して理解する能力」ということです。
物事を区別したり、良い物を見分けたりする能力がおかしな方向にいくと「差別」に繋がってしまうのかな?だから同じ単語を使うのかな?と違和感を持ったことで覚えた単語です。
皆さんはどう思われるでしょうか?